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 目を覚ました。
 果てがないほど広い草原に寝転んだまま青空を見上げる。太陽が眩しい。
「おはよう」
 すぐ隣に弟と少女がいた。柔らかい笑顔を浮かべている。体を起こしぼんやりする頭を振った。
「寝ていたのか」
「グーグーいびきかいてたよ」
 茶化す口調の弟を睨みつける。頭の後ろで腕を組み、そっぽに向かって口笛を吹き始めた。本気ではないがケンカを売っているのだ。応えてやろうと胸倉をつかもうとしたが、くすくす声なく笑う少女に脱力した。守るように弟との間に腕を伸ばす。
「テスラ、馬鹿のそばにいると馬鹿が伝染るぞ」
「どういう意味だよそれっ!」
 少女の笑いは深刻になり、腹筋にまで響いているのか腹を支えて体を軽く折り始める。弟と顔を見合わせ、一瞬ののち一緒に笑い出した。
 穏やかな風に花が紛れ宙を舞う。少女は髪を抑えながら目を輝かせてその光景を眺めた。地に手を置き小さな花をたくさん咲かせた。すべてが風にさらわれ青空が華やかに彩られる。楽しそうに眺める少女の横顔に、願っていた幸福が詰まっていた。
「お昼にしましょう」
 声がした方を向く。腰まである黒髪をなびかせた女は、バスケットを持ち上げてにっこり笑った。確かに大切な人のはずなのに名前が思い出せない。
「サンドイッチ作ったのよ」
「失敗しなかった?」
 このぐらいできるわよと女は弟の頭を軽く叩いた。
 唐突に胸の奥に虚空が生まれ、どうすればいいか判らず、二人を黙って眺める。
 少女が心配そうに頬に触れてきた。自分の手を重ね、大丈夫だと微笑む。
「はい、二人の分」
 水筒からカップに移したコーヒーを差し出された。少女はすぐに受け取ったが俺は受け取れなかった。女が首を傾げる。
「どうしたの」
「あなたは」
 コーヒーの表面に自分と女の顔が交互に映る。
「あなたは、人間と俺たち、どっちが大切なんだ」
 芝生の揺れる音がやけに大きく響いた。女はカップを置き、俺の顔を覗き込む。
「比べることなんてできないわ、その二つに大きな差なんてないもの」
 真摯さに、ほんの少しだけ泣きそうになった。
「あなたのことも大切よ、ナイブズ」
 やっと、名前を思い出した。
「レム」
 ナイブズは目を覚ました。
 だだっ広いそこは無機質な素材で作られており、青空だけが夢と同じだった。
「おはようございますナイブズ様。水をお持ちしましたわ」
 トレーに水差しとグラスを乗せたエレンディラが静かに近づく。起きるころになるといつもこうして水を用意する。
「顔色がすぐれませんね。どこか具合でも悪いんですの」
「夢見が悪かっただけだ」
 グラスを受け取る。透明な水は自分の顔すら映さない。
「プラントも夢を見るのね。人間の夢は願望を反映すると言われてますが、プラントはどうなのかしら」
 透明な破壊音。グラスが割れ、握り締めた手から水が滴る。
 ナイブズは憎悪を込めて睥睨した。
「俺はあんな光景を望んでなどいない。絶対にだ」
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