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 暗闇の中、いまはもういない人達だけがそこにいた。
 助けてくれた人、守りたかった人、優しかった人、僕が殺した人。
 その奥に一番大切な人を見つけて、名前を呼びながら走りだす。もう一度彼女と話がしたい。
 伸ばした腕は見えない壁に阻まれた。壁は厚く叩いても壊れず、ずるずるとその場に座り込む。身体中の力が全て闇に奪われていく。何に焦点を合わせればいいのか。僕の世界は暗闇ばかりでもうどこにも行けない。どこへ行っても、何もない。
「トンガリ」
 懐かしい硬質な声に振り向く。ウルフウッドが立っていた。煙草を挟んだ手で顔を覆うようにくわえている。
「僕は人を殺した。だからもう、レムに会えない」
 レムが命を捨てて守った人を、僕はたった一発の弾丸で殺した。レムの死を無駄にした。莫大な喪失感は何をもってしても埋めることはできない。
 ウルフウッドはしゃがみ眼の高さを合わせる。何の感情も顔には乗せず、ただ黙って観察している。僕の小さな呼吸だけが聞こえる。
 煙草をくわえたまま大きく息を吸った。煙草の先端が赤みを増し、長くなった灰が重さに耐え切れずぼとりと落ちる。ゆったりと吐き出される紫煙が広がり、霧散した。短くなった煙草は灯りを保っているが弱い。
 ウルフウッドは無表情のまま無感動に両腕を伸ばし、僕の体を抱き締めた。
「すまんかったな」
 何がだろう。ちっとも判らなった。
 抱き締めてくれた腕は、体温がなかった。煙草と硝煙と汗の匂いもなかった。呼吸で胸が上下することもない。あるのはレガートの命を代償にして必死にしがみついた魂だけだ。
 涙があふれた。彼を抱き返す資格もない。
 僕は一五〇年も生きていて、彼はたった二十年程度で幕を閉じた。孤児院のみんなは彼が記憶の姿と変わっていても歓迎の紙吹雪を降らせた。僕がもっと早く追いついていれば死なずに済んだかもしれない。生きるべきは僕ではなく彼だった。
「レガートを殺してしまった。彼を説得することができなかった。僕じゃなかったら、彼は生を望んだかもしれない。生きて、誰かに出会って、生まれてこれたことを感謝できたかもしれない。僕はそんな未来を全部断ってしまった。君のこともだ。君が向き合っていた痛みを知らず、安易に人を殺すなと言い続けた。どうして僕は生きているんだろう」
 せり上がってくる声は震え、涙が止まらない。何から謝ればいいのかどこから詫びればいいのか。レムに拾われずプラントの中で朽ちれば良かったんだ。
 軽い溜息が聞こえた。
「いつもやったらそんな弱音ぶん殴るところやけど今日は特別に許したる。代わりにキッツイこと言うで、ちゃんと聞き」
 柔らかい声に耳を澄ます。
「銃をとれ」
 背に回った腕が力を増す。声に熱がこもり心臓を突き抜ける。
「助けられへんのも、オドレ一人に背負わせとることも悪い思っとる。せやけど、オドレやないとアカンねん。この星はまだ、人を殺さな貫けんことが多い。やけどこの戦いが終わったら、オドレの理想に近づくかもしれへん。リヴィオが帰ってこれたんはオドレがおったからや。見限るな言うたんはお前やろ。ここで折れんな諦めんな。オドレを必要としてるヤツはぎょうさんおる。判るやろ?」
「判らないよ、ウルフウッド」
「ちゃんと見いや」
 暗闇の中、ぽつりぽつりと白い光が浮かんだ。漠然としていた焦点が結び始める。
『ヴァッシュ・ザ・スタンピードの戦いっていうのは、何一つ終わりにしないって足掻く事だから』
 小さな光が膨張していく。僕にはまだ、やれることがある。
「聞こえたな」
 ぽんぽん、と背中を叩くとウルフウッドは立ち上がった。そのまま去ろうとする。
「待ってくれ、ウルフウッド」
 立ち止まり、少し首を傾げるようにしたけれど、軽く手を振って歩き出した。
 手を伸ばす。
 守りたかった、君との時間を。また笑顔で酒が飲みたかった、孤児院のみんなと一緒に老いる姿を見たかった。できることならそこに僕もいたかった。
 一番の強い光は君だ。
「ウルフウッド!」
 すべてを破壊しようとするナイブズの叫びが僕を現実に引きずり戻した。
 伸ばした手で願いを掴み、起き上がる。
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