「焔、そんなところで昼寝か?」
 聞き慣れた低い声。視線を上に持ち上げれば、黒い人影が逆光になって見える。

「なんか、桜の下だと死体みたいだぜ」
 からかうように笑う影に、おれは少しだけ微笑み返す。

「桜を、見上げるのが好きなんだ」
「ふぅん?」
「空と桜しか見えないのが、ひどく心地いい」

 彼はおれの隣に腰掛ける。それで表情が少しだけ見えやすくなった。
「他のものはいらない?」
「いらない」
 汚いものは排除する世界など、おれはいらない。目の前にある美しいものだけで充分だ。

「俺は?」
「ん?」
「俺もいらねぇ?」
 目を細め、しかし笑んだままの彼に、もう一度笑みをむけた。

「……その木にでも登っていてくれ」
 彼に意図を伝えたのだが、返事の代わりに苦笑を投げられた。

「それじゃぁ、お前にキスできねぇじゃねぇか」
「ん」
 顔を近づけてくる彼に、おれは目を閉じた。
スポンサーサイト


コメント

    コメントの投稿

    (コメントの編集・削除時に必要)
    (管理者にだけ表示を許可する)


    トラックバック

    Trackback URL
    Trackbacks


    最近の記事