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「悟浄、禁煙とまでは言わないから、少し本数を減らしたらどうだ?」
「あぁ??」
 電卓を睨みつけならがら忠告してきた焔に、悟浄は煙草を銜えたまま機嫌の悪い返事をした。何の本数なのか、訊かなくても判る。
「だって十月からかなりの値上げだぞ」
 十月からの値上げとは、ニュースでもたびたび報じられている煙草のことだ。悟浄に禁煙の意思はまったくなかったのだが、焔はそれを許容するつもりはないらしい。
「ハイライトは一箱一二〇円の値上げ。悟浄は日に三箱。それの一ヶ月分だと、約一万八百円の上乗せだぞ」
 電卓を突きつけてくる焔に、悟浄は両耳を手で塞いで対応した。
「きーこーえーなーいー」
「キスするぞ」
 油断も隙もない。
 しかしキス一つで免除させるのなら安いものだと、悟浄は自分から軽く唇を重ねあわせた。
 効果は多少あったらしく、焔の頬に朱がさし、語気が弱くなる。
「お金の心配だけをしているわけではないぞ。健康の心配もしているんだからな」
 焔の弱々しい言葉に、悟浄は煙を吐き出すとにやりと笑う。
「別にいいじゃん。喫煙者の夫の肺は真っ黒、非喫煙者の妻の肺も真っ黒」
「……今、ものすごくいい感じに口説かれた気がする」
「そ?」
 子供のように抱きついてきた焔に煙草の火が当たらないよう、悟浄はその頭部に腕を回す。ついでに艶やかな黒髪を少しだけ撫でた。
「嬉しかったから、減らす本数を十本に妥協しよう」
「……それは一ヶ月?」
「一日で!」
 首筋に唇を押し当ててくる焔を少し引き剥がし、悟浄は左右異色の眼を睨みつけた。
「どのへんが妥協だって?」
「本当は三十本の予定だった」
「そりゃぁだいぶ減らしたなぁ」
 キスで駄目なら次はどの手を使うか。
 黒髪にくちづけを落としながら、悟浄は最善の一手を考えた。
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