仕事の帰り、私はスーパーに入っている文房具店へ寄った。自宅で使っているメモ帳ががなくなりそうなのだ。
 こじんまりとした店だが、しゃれていて若い客層が多い。ちょっとしたメモ帳でさえも、カラフルな表紙で飾られている。内容はすべて白紙なのに、女性向けなのか愛らしいデザインがいくつも並んでいた。その中から、一番安い代物を選ぶ。
 他に補充する物がないか、私は店内を軽く見て回った。
 すると、一つの商品に目がとまった。正確には、その商品説明のあおり文にだ。
 私はその商品も手にとって、レジに並んだ。


「ただいま」
「おぅっ」
 帰宅すると、シドがソファに寝そべりながら雑誌を読んでいた。いつも帰宅時間はまちまちだが、今日は早かったようだ。
 コートをハンガーにかけながら、今日買ってきた代物のことを話す。
「あんたに、土産を買ってきた」
「土産? 酒か?」
「ビールなら、冷蔵庫に入っているだろう」
 スーツのジャケットもハンガーに掛け終えると、ダイニングチェアにどさりと腰掛けた。仕事で身体がだるい。
「これだ」
 文房具店の包みからメモ帳だけを残し、シドに現物を渡す。
 だいぶ凝っているのか肩が痛い。背もたれに体重をかけ、天井を仰ぐ。

「ボールペン?」
「宇宙でも書けるそうだ」
 文房具店では、宇宙で唯一書けるボールペンだと紹介されていた。他にも、上向きや水中でも書けるらしい。
「なぜ、宇宙で普通のボールペンは使えないのだろうな」
「重力がねぇからじゃねぇか?」
 シドはさっそく雑誌にペンを走らせ、走り心地を確かめている。

「なんで、こんなモン買ってきたんでぇ?」
「あんたは、そのうち宇宙に行くんだろう?」
 シドは、宇宙飛行士としての訓練を受けている。実際宇宙へ行くのも、そう遠い話ではないだろう。
「だから、そしたら私に手紙を書いてくれ。暇しないですむ」

 パソコンのやりすぎか目が痛い。あとでホットタオルを目に当てよう。
 そんなことをつらつらと考えていると、後ろから苦笑が洩れ聞こえた。
「宇宙にゃぁ、ポストはねぇだろ」
「あ」
 自覚しているのよりも、ずっと疲れているらしい。
 私は、自分の額に手を当てた。
スポンサーサイト


コメント

    コメントの投稿

    (コメントの編集・削除時に必要)
    (管理者にだけ表示を許可する)


    トラックバック

    Trackback URL
    Trackbacks


    最近の記事