「シド、オムライスが食べたい」
「あ?」
 ヴィンセントの声に、シドは本から顔を上げた。
 シドの仕事が久しぶりに休みになり、ヴィンセントとどこかへ遊びに出かけようと計画したのだが、「嫌だ」の一言で却下された。それでのんびりと休日を過ごすことになった。

「寝起きでオムライスか?」
「あぁ」
 うたたねをしていたはずのヴィンセントはいつの間に復活したのやら、ダイニングテーブルについて新聞を広げた。見るともなしに眺めている。

 なんでもそつなくこなしそうなヴィンセントだが、料理だけは珍しくできなかった。タークス時代はどうしていたのかと問うと、社食ですべてすましていたそうだ。意外な答えだ。

 シドも料理が得意なわけではないが、できないわけでもない。読みかけの技術書にブックマークを残すと、「よっこいしょ」と立ち上がった。軽くのびをする。
 久しぶりに読書をしたものだから、身体が固まって仕方がない。気分転換を兼ねてキッチンに立つ。

 大きなフライパンに冷や飯をありったけ入れる。男二人分にしても多い量に、ぶつ切りの野菜と鶏肉を混ぜる。シドの性格をそのまま表した、豪快な料理だ。
「あまり、汚さないでくれ」
「なら、おめぇが作ってみろ」
 料理担当はシドだが、片付け担当はヴィンセントという分担から、いつもこの手の会話が交わされる。シドがヴィンセントの忠告を守ったことはない。

「おら、おめぇさんのだ」
 ドンッとテーブルが跳ねるほどの勢いと重量感を持って、ヴィンセントの前に大きな皿が置かれた。半熟玉子が、美味しそうに輝いている。
「ケチャップがかかってない」
「あぁわりぃ。向こうに置きっぱなしだ」
 シドはからのフライパン片手にキッチンへ戻っていった。これからシドの分の玉子を作るのだろう。ヴィンセントもその後を追い、ケチャップを回収する。自分の皿に、うずを描いた。
「オレ様のにもかけてくれ」
「あぁ」
 フライパンをシンクへ放るシドの背に頷いた。すこし考えたのち、「CID」と明記する。
「スプーンをくれ」
「あぁ」
 金属の光沢を放つそれをヴィンセントへ渡す間に、落書きされたオムライスを見た。

「なんでオレのは名前なんだ?」
「美味しい」
 幸せそうに呟くヴィンセントに、シドは肩をすくめた。
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