「デートに行くぞ」
「いつだ?」
 ソファに寝ころびながら本を読んでいた焔は、悟浄の言葉に顔を上げた。時刻はあと数時間で日付が変わるというころ。完全にリラックスしきったところに、悟浄は意外な答えを寄越した。
「いま」
「いまから?」
 ゴールデンウィーク最終日、これから泊まりがけで旅行に行くわけにはいかない。怪訝そうに見上げる焔に、悟浄は笑顔で手を差し伸べた。
「コンビニ」
「行く」
 二つの手が重なった。


「まだ夜は冷えるな」
 昼間から着替えていなかった焔は、肌寒い自分の肌をさすった。温かいのは、つないだ手の平だけだ。
「コンビニまであと少しだから我慢しろ」
「悟浄がキスしてくれたら暖かくなるかもしれん」
「あと少しだから我慢しろ」
 まったく調子を変えない悟浄の腕を両腕で抱きしめる。
「なら、抱きついて暖まる」
「歩きにくいからだめ」
「寒いなぁ」
「もう見えてんだろ」
 悟浄が顎で示した先には、暗い駐車場を皓々と照らすコンビニが浮いて見えた。もう少し遠ければ、無理矢理説得できたのかもしれないのにと、焔は軽く睨みつける。

 コンビニの中は、風がないぶん外よりは冷たくなかった。「菓子買うか?」の言葉に頷くと、悟浄は手を放してオレンジ色のカゴを持って窓際へ行く。
「ジャンプ、合併号なんだよな……」
「ゼロサムを読め」
「コンビニじゃねぇし。菓子持ってこい」
「ん」
 しばらく迷った結果、気に入った商品を三つにまで絞って悟浄の姿を捜すと、オレンジのカゴにはマンガと缶ビールが三本も収まっていた。
「悟浄飲み過ぎ」
「お互い様だろうが」

 マンガとお菓子と缶ビールとハイライトで、白いビニル袋は大きくふくれた。
 悟浄がぶら下げたそれは、明日への緊張感などまるでない。
「悟浄、手つなぎたい」
「ん? ほら」
 ビニルの袋を持ち替えると、大きな手が差し伸べられた。さきほどより、少しだけ冷たく感じる。
「あー、飲みながら帰りてぇ」
「家まであと少しだから我慢しろ」
 恨めしそうに見下ろしてくる視線に、口角だけ持ち上げて微笑んだ。

 暗い夜道、たまに聞こえるエンジン音、胸騒ぎにも似た焦燥感に、焔はふと足を止めた。
「どした」
「連れ去ってくれ」
「あ?」
「明日、会社行きたくない。連れ去ってくれ」
 まっすぐな視線に、悟浄は苦笑しながら黒髪をかき混ぜた。
「家に帰ったら、思いっきりイチャついてやるから」
「んー」
 歩き出した悟浄に合わせて、焔も仕方なく足を動かす。
「なんで夜は寂しくなるんだろうな」
「さぁな。でも」
 つないだ手が振り払われると腰を抱き寄せられた。
 だがそれに驚くよりも。頬に触れる赤い髪に息を詰める。
「人肌恋しい方が、セックスに誘いやすいだろ?」
「すけべ」
 恥ずかしさで身体を押し退ければ、健康そうな笑いが降ってくる。
「あーあ、もうすぐデートが終わりだな」
「もっとしていたかったな」
「仕方ねぇ。家でイチャイチャするか」
「する」
 焔はもう一度悟浄の手をにぎり、にこりと微笑んだ。

焔はあれだ、たまに本気で「なんでこんな色男がおれの恋人なんだろう?」って思っているに違いない。
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