「その怪我は、マキャビティに負わされたもの?」
 草むらに隠れて傷口を舐めていたランパスは、気配を隠して現れたジェミマに、バツの悪そうな顔をした。


「お前には関係ないだろ」
「そんなことないよ。傷口見せて」
 無表情のまま背を向けるランパスの腕をむりやり引っ張り、ジェミマは肉がはぜたような腕と対峙した。
「女が見るモンじゃない」
「でも、このまま放っておくものでもないよ。ちゃんと手当しないと」
 深くえぐられた腕は目を背けたくなるようなものだったが、この傷はみんなを守るためにできた傷だ。ジェミマは用意してきた救急箱から、薬と包帯を取り出す。
「このことは誰にも言うなよ。とくにマンカスにはな」
「やっぱり、彼の代わりに戦ってるの?」


 マンカス――彼は、みんなの中心にいる、優しい心を持った青年だ。
 リーダーと呼ぶにはすこし頼りなく、だけどみんなの事を考え、みんなの幸せを考えてくれる存在。きっと彼がジャンクヤードのみんなを引っ張ってくれるんだろうなと誰もが思っていたとき、マキャビティは現れた。


 悪魔の化身のような男は突然姿を見せ、嵐のように仲間を傷つけていった。怯えるしかない私たちを守るように雄猫たちは戦ってくれたけれど、無傷ですんだものはいなかった。特に酷かったのはマンカスだ。
 心優しい彼は、争いごとが嫌いだ。争いとは関係のない世界、憎しみなんかない世界、そんな世界を願う彼は、他人に牙を剥く方法など知らなかったのだ。それなのに、一番多くマキャビティに爪を向けたのは彼だった。
 負けることは目に見えていたはずなのに、守るために傷を負ってくれた。誰よりも、優しい存在。


「マンカスは優しいから、ランパスがこんな怪我してるって知ったら、すごく悲しむだろうね」
「俺の怪我を見てあいつが悲しむンなら、それはあいつ自身の責任だ」
「どうして?」
「優しいだけじゃ、誰も守れない。力がなきゃ負ける」


 みんなに気づかれないようにマキャビティを撃退させることができるのは、ランパスが犬さえも蹴散らすほど喧嘩慣れしているからだ。
 弱いマンカスの代わりに戦っている。ランパスが怪我をしているのはマンカスの所為。だから悲しむのは、マンカス自身の責任なのだと。


「でも、ランパスがしていることも、やっぱり優しいことだよ。力がなきゃ負けちゃうのは確かだけれど、優しいから、守ろうって気持ちが出てくるんだもん」


 ランパスは以前、みんながいつも笑顔でいられる世界を作りたいっていうのは、シロップ漬けの甘い考えだとマンカスを評価したことがあった。確かにそうかもしれないけれど、シロップに漬け込んだ甘い夢を影で支えようとしているランパスもちょっぴり、甘いと思う。


「くだらねぇ」
 ランパスは無表情のまま立ち上がると、ジェミマに背を向けて歩きだした。血で汚れた後ろ姿は、争いのない世界とはほど遠いところにあるべきなのに、すぐ真後ろに立っているように見えた。


「あ、ちょっと、脚も怪我してるじゃない」
「じゃぁな」
 ひらひらと片手を振る優しい背中を、ジェミマは半開きの救急箱を抱えて追いかけた。
「ちゃんと手当しないとだめだってばぁ!」


 昔と変わらず護るために必要なものを隠し持っているこの男の背中はやっぱり大好きだと、ジェミマは誇らしく思った。

A川マンカスに夢見過ぎですかね(うん) そんな話。
ランジェミを書いたのは、メタメタに弱いマンカスの代わりに、ランパスが云々って話をちょびっとしたのでつい(笑)
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