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 誕生日だからと、焔に連れられて行ったレストランは、なんというか、ものすごく高そうだった。

「なぁ、ここめちゃくちゃ高さそうなんですケド」
「七千円のコースを予約したから、かなり味わって食べてくれ」
「ななせっ……?!」
「かなり味わって食べてくれ」

 もう一度同じ願いをすると、焔は重厚な扉を開けて店内へ入った。折り目正しいウェイターに予約の名を告げ、テーブルまで案内される。

「俺、こんな高いところで食ったことねぇんだけど。フォークの順とか、気にしないとだめ?」
「ファミレスみたいにすればいいのではないか?」
「いや、それは駄目だろ。流石に」

 焔に倣い、ナプキンを膝にかける。焔は普段、どう考えたって馬鹿にしか見えないが、俺よりはるかにマナーも知識も頭脳も上だ。なんかおかしくね?

 うやうやしく目の前に置かれた皿の上には、見た目も鮮やかな料理が飾られている。これは食事と言うより、むしろアートに近い。

「こんなんじゃ逆に、食った気しねぇかも」
「かなり味わって食べてくれ」

 焔は真剣な表情をしながら、ナイフとフォークで上手く料理をカットする。

「そんなに痛手なら、もっと安いところにすりゃぁ良かったのに」
「でも、せっかくの悟浄の誕生日だからな」
「真心がこもってりゃ、俺はそれでいいけど?」
「リップだけだと怒られると思って。事実怒られたし」
「あっちがメインかよ」

 俺も慣れない手つきで料理を口に運ぶ。うん、美味いけど……正直、どのレベルまで美味いのか
ちっとも判んね。普段豪華な食事に慣れていないから、美味いモンは美味い。に集約される。

「別にそんな祝ってもらっても嬉しい年齢じゃねぇから、来年からはランク下げていいぜ」
「んー、でも、これは祝いじゃなくて、感謝だから」
「感謝?」

 焔は俺と視線を合わせないまま、訥々と語り始める。

「恋愛ものの映画や小説は好きで何度か読んだことあるが、いまいち『生まれてきてくれてありがとう』って言うのは理解できなくて。でも、ちゃんと人を好きになったとき、ありがとう。っていうのが判って。好きになってくれてありがとう。これからもそばにいて欲しい。とか、そんな感じだ」

 はにかむような笑みの中に、眸だけは寂しげに光っていた。そこには、かつて死なせてしまった恋人の姿が映っているのだろう。
 嫉妬心はない。ただ、哀れだと思う。

 俺はワインで満たされたグラスを手にしながら、おどけてみせた。

「そんなに期待されちゃぁ、優しい悟浄さんはそばにいるしかなくなっちゃうじゃないの」
「うん」

 まだ寂しさを残す焔に、胸中で苦笑した。
 俺の誕生に、気を遣わせるんじゃねーっての。

「ほら、さっさと食え。七千円もするんだろうが」
「ん」

 誕生日にプレゼントを要求されるなんざ普通じゃねぇけど、嫌いじゃねぇなって、本気で思った。
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