かたり、と宿屋の窓が静かに開けられた。ベッドに寝転んでいた悟浄が視線を持ち上げれば、焔が笑顔で窓枠に足を乗せていた。
「久しぶりだな、悟浄。野宿続きで寂しかったぞ」
「こっちだって好きで野宿してんじゃねぇよ。それ何?」
 悟浄は上半身を起こしながら、焔が手にしている小さなビニール袋を指した。焔はシーツに靴跡を残さないように気をつけながらベッドに腰かける。
「アイスだ。最近ずっと暑いから。悟浄も今食べるか?」
「あとで食う。そこの冷凍庫に入れといて」
「ん」
 焔は自分の分だけ袋から取り出すと、冷凍庫の中に残りをしまった。そして悟浄に密着するようにベッドに座り直す。
「近すぎだろ」
「いいではないか」
 呆れ顔の悟浄に構わず焔はアイスのふたを開けた。アイスはゆるく溶け始めており、慌てて買ったときについてくる木製スプーンで食べ始める。
「それよりお風呂まだだろう。埃臭いぞ」
「あとでお前と一緒に入るからいいの」
「ならば許す」
 焔は無邪気に笑うと、唇にアイスをつけたままキスをしてきた。悟浄は焔の額をつかみ引き剥がす。
「アイス食いながらすんな」
「なぜだ?」
 スプーンをくわえながら問いかける焔を見下ろしながら、悟浄は眉間にしわを寄せる。不機嫌さと戸惑いが混じっているような表情で、本人も自分の感情を理解しきっていなさそうだ。その表情そのままの声色でぽつりと呟く。
「アイス食うたびに思い出すだろ」
 焔はアイスをテーブルに置くと、両腕を悟浄の首に回してもう一度口づけた。今度は悟浄の声に怒気が混ざる。
「人の話聞いてなかったのかよ!」
「聞いていた。だから食べるたびに思い出させようと。おれも毎回思い出せるしな」
 そうしたら寂しくないと言葉を続けられ、悟浄は深い溜息をついた。乱暴に黒髪を撫でる。
「そんなに寂しい思いさせてねぇだろ。風呂に入りたいからさっさと食え」
「ん。頑張る」
 焔は嬉しそうに微笑むと、アイスをきれいに平らげた。
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