悟浄はなんとなく買ってきたファッション雑誌に眼を通していると、焔がその手元を覗き込んできた。焔の目線は雑誌ではなく、悟浄の手そのものに注がれていた。
「悟浄、爪長いぞ」
「そうか?」
 そう指摘されて悟浄は改めて自分の指を見た。普段意識していない爪は、確かに若干伸びている。しかしこれより長く伸びている輩はいくらでもいるし、悟浄自身はこの長さを不便だと感じてはいない。
 しかし焔は気になるらしく、目線を逸らそうとしない。
 焔自身が暇を持て余しているのもあるのだろう。悟浄は仕方なく片手を焔の眼前に差し出した。
「切る?」
「うん」
 迷うことなくうなずいた焔は、一度離れると爪切りを持って戻ってきた。そして悟浄の膝と膝の間に腰掛ける。
「おい、なんでここに座るんだよ」
「座りたいからだ」
 答になっていない答えを返した焔は、それでも真剣な眼差しで悟浄の手をとった。なので悟浄は片手を焔の好きにさせることにした。
「指まで切るなよ」
「うん。気をつける」
 焔はいきなり爪を切ったりせず、子供が遊ぶように指先をいじった。気にせずに雑誌を読み続けていると、やがてパチリパチリと軽い音が響いた。しかしそれも束の間のことで、また指をいじりだし、座り心地悪そうに何度も座り直す。
「あんまりもぞもぞすんな」
「すまないなんか、爪切りって官能的じゃないか?」
「……お前って、変なときにスイッチ入りやすいよな」
 焔が唐突に反応することは今までに何度もあった。食事をしているときや煙草に火をつけるときにスイッチが入ったりするから、悟浄は自分よりよほど焔の方が性欲が溢れているのではないかと思うのだが、悟浄以外の前でそんな反応を見せることはないから周りには認知されていない。
「まだちゃんと入っていないから、大丈夫だ」
 そうは言うものの、焔の声には熱がこもっている。
 爪切りと欲情が結びつかない悟浄は焔の片にあごを乗せながら、あとでその気にさせてもらうかと考えながら、雑誌を放って軽く抱きしめた。
「全部切り終わったら相手してやる」
「指十本は多すぎる……」
「俺が寝る前にやり終えろよー」
 落ち着きのない恋人を抱き締めながら、悟浄は幸福そうに眼を細めた。
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