ヴィンセントは、宿屋のベッドの上で両足を伸ばし、本を読んでいた。夕食をすませてしまえば、あとは寝るだけだ。たまに誰かが話しにくる以外は、常に静かだ。
「ヴィン」
「ん?」
 同室者――シドの声に顔をあげれば、ヴィンセントが予想していたよりもかなり近くに――わずか三、四センチしか離れていないところにシドの顔があった。
 ヴィンセントはとっさに左手て彼の顔を覆う。
「……なんのようだ」
「いや、おやすみのちゅーをだな」
「迷惑だ」
 押しのけるが、シドはなかなか引かず、ガントレットがギシギシと鳴る。
「なにが迷惑でぇ。昨日キスの回数が少なかったって、拗ねてただろ」
「なっ。私は拗ねてなどいない」
「風呂でふて腐れてたじゃねぇか」
「でたらめを言うな!」
「でたらめじゃねぇ」
 ヴィンセントは顔を朱に染めながらも、絶対にシドの言葉を認めなかった。
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